
「厚生労働省」という言葉を聞くと、医療や年金など私たちの生活に関わる大切な仕事を担っていることが思い浮かびます。生活保障は国家の使命であり、国民の生活保障に大きくかかわる重要な役割を厚生労働省が担っています。
実際に、2023年度の国の予算の3割強が厚生労働省が管轄する社会保障関係費であり、その予算を約3万人の職員が受け持っています。しかし、新型コロナウィルスの感染対策などで多忙を極める今、職員たちは心身ともに体調を崩したり、仕事に対する意欲が失われ、転職を考える人も少なくないようです。(1)私がこれまで接してきた同省(旧社会保険庁を含む)の職員はほとんど真面目で、高い使命感を持って懸命に働いています。しかし現在、心身ともに体調を崩したり、仕事に対する意欲が失われ、転職を考えている職員が多いことは残念です。
かつて英国は、高福祉国家として各国の憧れの的でした。我が国も国民皆保険、国民皆年金と徐々に高福祉の国となったのですが、その結果「低負担高福祉」という歪んだ社会保障の国となってしまいました。一方、英国や北欧各国は従来より高負担高福祉の国です。どうしてこうなったのでしょうか?
これは、政治的な判断の違いに起因していると考えられます。政治家が目の前の1票を求めて、長期的視野に立っておらず、選挙や政局重視の判断で行われたことが影響しているのではないでしょうか。少子高齢化に向かうのが間違いないと言われる中で、大切なのは、これまでの「利益」の分配ではなく、「負担」の分配でしょう。これは大きな政治判断を伴います。政治家が目の前の1票欲しさに判断していては、痛みを伴う制度改正は先送りとしてしまっています。
今、私たちができることは、先ずは自身の健康を維持し、正しく年金制度を理解することです。そして、社会保障制度の将来のあるべき姿を示してくれる政治家に投票することです。生活の安心と安定があっての将来の夢の実現です。
(1)千正 康裕, 『ブラック霞が関』, 新潮新書, 2020
